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2008年9月13日 (土)

「西国三十三所 観音霊場の祈りと美」 奈良国立博物館

「西国三十三所札所巡り」と聞くと、なんとなくお年寄りの方々が御詠歌を詠いながらトボトボと山の中のお寺を巡って行く感じがするが、実際関西ではそんな感じではない。案外若い(若いと言ってもやっぱり30越えてからかなぁ・・)人達も、隣のおっちゃんおばちゃんも「ほな、そろそろ御札巡りでもしましょか・・」てな調子でひょいひょいと手近な札所から巡り出す。一気に全てを巡る人も居れば、死ぬまでに全部巡ればいいやというような感じでゆっくりと巡っている人も居る。四国八十八所のお遍路さんとはちょっと雰囲気が違う。こういう私も途中で休憩組の一人である。
今年は、西国三十三所を中興した花山法皇一千年忌ということで、各地の札所ではご本尊の御開張が行われるし、奈良博でもそれに関した特別展が開催されている。

この特別展、見応えのある内容である。通常では見られない、各地の札所から集められた宝物や、観音信仰にまつわる品々がわかりやすく並べられている。

そんな中から、気に入ったり、興味がひかれたものを。

Img_kannon11これは奈良の岡寺(第7番札所)の本尊である如意輪観音像の胎内からでてきた「菩薩半跏像」。
天平時代の作とされている。

このような半跏思惟像の仏像は、京都の広隆寺や奈良の中宮寺の弥勒菩薩がよく知られているが、これは如意輪観音とされている。

天平時代の仏像の顔とはちょっと異なった風の顔付で、優しげで知的な現在風の顔付をしている。

美しく親しみが持てる仏像である。
元は孝謙天皇の念持仏であったとされているが、この仏像を愛蔵する気持ちはわかるなぁ。

この20センチばかりの小さな美しい仏像を収める為に、あの大きな岡寺の本尊である如意輪観音像(岡寺のご本尊は建物一杯に座っておられる程大きい)が作られたのだとすると、この像の持つ功徳がいかに大きなものであるかと古の人達が感じていたのかを計り知る事ができる。

何回見ても、じっと引き込まれる魅力を持った像である。

Img_kannonn2_2これは兵庫県圓教寺(第27番札所)の「如意輪観音像」。

鎌倉時代の作とされている。

20センチ程の小さい観音さんだが、まず目につくのは、丁寧な截金文様のすばらしさ。
細かく密度濃く描かれている。(後でカタログをよむと後補らしいが・・)

きらびやかな文様にも関わらず、その姿からは清楚な雰囲気が感じられる。
六臂の姿がなぜか中性的な魅力を醸し出す。

観音はその姿から男性の様に見える像も有れば、女性の様に見える像もある。
いずれにしても、現世利益に大きな力を持つ者として人々の信仰を集め、その願いを体現している。
そのため、自ずからその表情は優しく、慈愛に満ち、そして愛着の持てる御顔をしている。

この如意輪観音も伏せ目がちに閉じられた表情から慈愛のようなものを感じる。

またこの像は全体からして、曲面による和やかな雰囲気が伝わって来る。各腕が作りだす柔らかな空間、立て膝による着衣が描く襞の曲線、これらが一層その和やかな雰囲気を導き出している。

すばらしい観音像である。

Img_kannnonn3_2これは岐阜県の華厳寺(第33蕃札所)にある「毘沙門天立像」。

平安時代の作とされている。

毘沙門は元々はインド古来の神であり、帝釈天の家来であって鬼門を護る武人とされている。そのせいか表情はやはり怒りに燃えた表情であり、異神として独特の顔をしている。

如来や菩薩の顔が、仏教が伝来して行く土地の顔に変遷して行ったにもかかわらず、天立像はインド古来の顔付をかたくなに守っている。

その中でもこの毘沙門像の顔は異様である。
猪首で肩にめり込む様につくられた頭部は肉付きがよく大振りの目鼻立ちをしている。
インドアーリア系の精悍な顔付が多い中、こんな顔付の毘沙門像は見た事が無い。

かえってこのふてぶてしい様な表情、体型が通常の毘沙門さんよりも威厳が有り力強い感じがする。
ある意味、野卑な風貌が毘沙門としての効験を大きくしているのかもしれない。

Img_kannnonn4
これは法隆寺にある黒漆塗りの「六角厨子」の真中に嵌め込まれてある中板に描かれた「補陀落山の山水画」。

補陀落山は観音が住む所で、光に満ち、花果草木が生い茂り、水の豊かな清浄な土地とされている。西国三十三所の寺院が険しい山にあるのもこの補陀落山を模したからとされている。
よって観音信仰のあるところには、色々な「補陀落山図」がある。

今回驚かされたのはそのの補陀落山の山の形と周りの海の描き方。

以前にこのブログでも書いた「日月山水図屏風」、これは私にとっては非常に印象の強い画である。それと同時に、その他の中世に描かれた「大和絵風の屏風図」とは、異なった様相を見せる不思議な山水屏風である。

その「日月山水図屏風」に描かれた釣り鐘状の山や波のうねりを示す線描の描き方、また松の根元の二股の分かれた様子等が、この「補陀落山水図」と似ている。
「日月山水図屏風」は密教の儀式の用度として飾られたものであるとされているが、案外そのルーツはこのような「補陀落」を描く所に有るのではないかと思えて来た。

聖なる山や聖なる海の描き方の共通点がこのような観音信仰の中にあるのではないだろうか。

古からの人々の観音に対する思いが、西国三十三カ所の札所を存続させ、またそのお寺に思いの結晶たるすばらしい美術品が残されている。その人々の熱き思いにあらためて気付かされるすばらしい展覧会であった。

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コメント

好日さんも行かれたのですね。よい展覧会でありました。
わたしも休み休み、札所を回っています。
仏像の中でも観音さんの造形は、ヴァリエーション豊かな中にも、共通の思いみたいなものが感じられて興味深いです。
救いを求める心、のようなものでしょうか・・・。

投稿: はたこ | 2008年9月19日 (金) 07時37分

はたこさんへ
いいですね「観音さん」。心が安まる気がします。
博物館の中でも、訪れた人が並んでいる観音さんに手を合わせている風景が見られました。
多面他臂の姿も、それだけ色々な願いが寄せられた証しだと思ってます。
いつもの雰囲気とちょっと異なった展覧会でした。

今年は多くのお寺で御開張が行われるので休んでいた(さぼっていた)かいがありますね。
がんばって廻ろうと思ってます。

投稿: 好日 | 2008年9月19日 (金) 21時55分

先月行ってきました。私の予想以上に素晴らしい展覧会でした。
関西にお住まいの方には、「西国三十三霊場」は、身近なのでしょうね。

その前日、近江八幡の「長命寺」に行ったばかりでした。
八百八段の石段に、心臓が飛び出しそうでした。
でも琵琶湖の眺めは最高でした。

これから次々と秘仏が開帳されますよね。
私も回ってみようかなと思っています。
期限はないのですよね?

投稿: nao-mi | 2008年9月21日 (日) 21時37分

nao-miさんへ
長命寺さんの階段はしんどいとの噂はきいております。
暑い中、大変だったでしょう。
そこから眺められた琵琶湖の風景は、あたかも蓬莱山から眺める世界と同様でなかったかと思います。

御開張は平成20年10月から平成22年5月までの間、各お寺によって異なりますが、短い所で1週間程、長い所で2〜3ヶ月の間されるみたいです。
(例えば、青岸渡寺ならば平成21年3月1日から3月末日までとか。)
詳しい情報は、http://www.saikoku33.gr.jp/open/に掲示されています。ご参考に。

秘仏として常に見られないものを中心に巡わろうとしても、うまく予定を立てなければ難しそうですね。

投稿: 好日 | 2008年9月22日 (月) 23時11分

懇切な解説に御礼申し上げます。NHK朝番組の うえるかめに登場する巡礼者の着衣に記された三つ巴の紋所の意味は如何なる意味を
 持つものか?解説いただけたら幸いです。

投稿: 飛騨阿修羅 | 2010年3月 4日 (木) 09時22分

飛騨阿修羅様

はじめまして、好日です。訪問ありがとうございます。
「うえるかめ」は見ていないので詳しいことはわかりませんが、多分その巡礼さんは四国八十八ヶ所のお遍路さんで、彼らは袈裟や着衣に「三つ巴」の紋を付けておられます。
私が知っている範囲では、これは和歌山県にある「丹生都比売神社」の御神紋だそうです。
なぜ「丹生都比売神社」かというと、弘法大師が真言密教修業の場を求めて紀伊の山々を巡っていた時、二匹の犬をつれた狩人に出会い、その導きにより高野の地を見つけ金剛峯寺を建立しました。この案内をした狩人が実はこの地を治める神である「丹生都比売大神」の子である「狩場大神」で、彼らを祀った「丹生都比売神社」は高野山金剛峯寺の守護神とされました。
よって、弘法大師と「同行二人」となるお遍路さんも、その御加護をうけるようにと「丹生都比売神社」の御神紋を付けるそうです。

なにぶん番組を見ていないので、確かでは有りませんが、ご参考になればと思います。

なかなか更新できてませんが、また訪れてください。

投稿: 好日 | 2010年3月 5日 (金) 00時51分

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