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2009年11月29日 (日)

アムステルダム、ベルギーそしてパリへ(ゴッホ美術館 5)

2年近く居た南フランスを離れ、パリの北のオヴェールへ移ったのが1890年の5月。自殺したのが7月だから、この地で絵を描いたのはほんの2ヶ月ばかり。
しかし、この地で描かれた絵には心を揺さぶられる物が多くあります。

いや、この地で描かれた絵すべてが心を打つと言っても良いかと思います。

画家には、何を描いてもすばらしい絵となる時期があります。
ゴッホのこの最後の2ヶ月間もそんな時期だったのでしょう。

この美術館にもこの時期の絵が何点かあります。

Img_gogh53

これは、「麦穂 (1890)」。

風にそよぐ、豊かな麦穂の絵です。
一枚一枚の麦の葉が、風にそよぎ、表の濃い緑色、裏の少し薄い緑色と微妙に色を変え揺れ動いている様は見事です。
麦穂も風に身をまかせるように揺れ動いてます。

好みの絵です。

この絵をじっと見ていると、この構図そして色合いはまるで日本画を見ているかのような錯覚が起こってきます。

うーん、不思議な感覚だなぁ!

この絵だけでなく、オヴェール時代のゴッホの風景画は全体的な雰囲気が非常に日本画に似ているような気がします。

Img_gogh55_2

これは「木の根 (1890)」

この頃のゴッホの絵のひとつの特色に、変形キャンバスを使用してるという事が言えると思います。
縦が50㎝位、横が1m位のキャンバスです。

この横長のキャンバスというのは私にとっては感覚的に受け入れやすい形です。
ちょうど、屏風絵を見ているような感覚です。

そんなところから、日本画的な雰囲気を感じるのでしょうかね?

この木の根のうねりくねった形を見ていると、色はともかく、狩野派の松の木なんかを思い出します。
そういえば、タッチも似ている感じがしますね!

Img_gogh52

「荒れ模様の麦畑 (1890)」

ゴッホが自殺する何日か前から描き出した麦畑の絵の連作です。

この絵では麦畑は緑色で描かれ、荒れ模様の空の下に広大な感じで広がっています。

ゴッホの書簡によると、この絵を描いていた頃、弟のテオが仕事先(テオは有名な画廊に勤めていた。)でトラブルとなり、その彼から生活の援助を受けていたゴッホにとっても絵三昧の生活がいつ崩れ去るのかという不安に陥っています。

平穏な青々とした麦畑を、頭上のオドロオドロしい雲の流れが吹き乱そうとしている様子は、あたかもゴッホの生活を覆う社会の黒雲のような感じがします。

このような物理的な不安とともに、ゴッホにはいつ自分に再び精神的な破綻が訪れるのかというアルルの頃から引きずっている精神的な不安もあったでしょう。

そのような避けられない不安がこの荒れ狂う空には込められているように思います。

そんな追い詰められた気持ちとは裏腹に、この連作をみているとゴッホの美に対する感覚はますます研ぎ澄まされていったように感じます。

Img_gogh51

「カラスの群れ飛ぶ麦畑 (1890)」

この絵を見て小林秀雄は膝が崩れるような衝撃を感じたと書いていたとおもいますが、たしかにものすごく重たいものを感じる絵です。

その重たさはまずこの構図から来ます。
麦畑の中へ3本に別れていく道。その道を覆い隠すように風に揺れる黄金の麦穂。何かを暗示するように荒れ狂う空。その何かに驚いたように嵐の空へと飛び出していくカラスの群れ。それらが変形キャンバスの横いっぱいに展開される迫力。

そして色。
奥の部分と手前の部分を暗くし、真ん中の部分をハイライト気味に明るくし、水平線上で区分けられる青と黄色のコントラストを強調していく色調が劇的な雰囲気をかきたてます。

そしてこの絵がゴッホが自殺する直前に描かれたという知識。

これらが合間見えて、この絵は見るものにゴッホの死を象徴するような重たさを感じさせます。

付け加えれば、このカラスの群れですが、ゴッホの絵でこのような動きがあるものが描かれている例は私は他には知りません。
ゴッホはもののあるがままの姿を彼自身の方法でキャンバスに移すことに精を出した画家で、ものの姿を頭の中でイメージにしてから描くことを嫌う画家でした。
しかし、このカラスに関しては、ゴッホはどこかでカラスが飛び立つのを見たかもしれませんが、イメージで描いたような気がします。
あまりにもドラマティック過ぎるような気がします。
ひょっとしたら、この烏の群れはゴッホだけには見えていて、実際はいなかったかもしれません。

そうすると、このカラスはゴッホの妄想の産物であり、それはゴッホ自身を、ゴッホの描く絵そのものを示すものであり、それが嵐の空へ飛び立っていく風景はまるでゴッホの人生を象徴するものであるのかもしれません。

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